五
江戸時代から連綿と続く桝一の酒蔵。その一部を生かしなんらか事業ができないか、と暗中模索、七転八倒、猪突猛進。蔵人たちが酒造りのあいだに囲む、寄り付き料理のレストラン「蔵部」に転身を果たしました。この四字熟語でまとまるはずのない話はまたの機会に譲るとして、今回はかかる場所にふさわしい酒を造ろうよ、という話をひとつ。さて、どんな酒にするべきか。そのヒントは意外なところにあったというお話です。
「蔵部」の着工中、インテリアにしようと思ったのか、どさくさに紛れて宝探しをしていただけなのか。蔵をはじめ敷地内に眠る物品を探し回った社員がおりました。その嗅覚、迫力、好奇心はすさまじく、普段なにげなく通り過ぎていた武家造りの門、の切妻屋根、の裏側にわずかなスペースを見つけてずんずん進入。するとそこには乳白色の一升瓶、円筒形の徳利、蛇口のついた壺のような瓶がずらららと並んでいたのです。
それらは江戸、明治に使われた「通い瓶」という道具で、かつては酒屋で瓶を買い、酒がなくなったら店に通って詰めてもらうという大変エコな楽しみ方をしていたものでした。って話はさておき大量の瓶を目の当たりにした例の社員は、こういう瓶が似合う懐かしくて新しい酒を造ろうよ、と考えた。世を席巻する大吟醸酒の逆をいく、米本来の旨みが際立つ辛口の純米酒にしようじゃないの、と。それが現在の看板銘柄に繋がるわけですが、詳しくはまた次回。