七
さて今回は、二つの川と街道が交わる逢瀬の地・小布施で酒を造り、酒を通じて人と人との和気あいあいを醸してきた桝一の歴史は、今も本店の一角にある試飲カウンター「手盃」に息づいている、というお話をいたします。手に盃を合わせて「テッパ」。これはもともと量り売り試飲を意味する北信地域の方言で、かつて通い瓶片手に酒を買いにきた人々が、お好きな量を詰めるだけでは飽き足らず、店先で一杯いくかと集った場をさす言葉です。
今でこそ高めのカウンターに木椅子というしつらえですが、江戸から昭和にかけては座敷に胡座というラフな感じでやっていたものです。昼過ぎに町の人がやってきて一合ちょうだい、なんて言うと、薄くて底の平たいガラスのお燗瓶に酒を入れ、練炭をくべた炉で人肌くらいにあたため、はいお待ち。といった具合で楽しまれていたようで。社長がまだ小布施のイガグリ坊主だった頃、たまに店番をしてお客とスルメをかじっていたとか、いないとか。
それから時は流れ平成元年。本店の改築に伴い現在の試飲カウンターへと転身。老若男女、各国の人々が訪れてきては、そのとき桝一にある銘柄を錫のお猪口になみなみ注いで、はいどうぞ。といった具合で賑わったりしっぽりしたりの日々であります。仕込みの時期以外は、杜氏や蔵人がカウンターに立ち酒の話をすることも。少し宣伝しますと最近はフルーティな「碧漪軒」や甘口の「州」が人気、といって辛口の「スクウェア・ワン」や「白金」なんかもおすすめです。